小さな村ティンクル
 これは、まだ電気も電話もなかった頃のお話です。

 町から少し離れた所にティンクルという小さな村がありました。そこは、入江(いりえ)に面した村で、とってもきれいで静かな所でした。村は、ちょうど10段で出来た段々畑(だんだんばたけ)のようになってて、どの段も20軒づつの家がありました。また、その段々を下りきった所には、いつも煙突から、ほんのり色のついた湯気がでている工場がありました。その工場では、薬を作っていました。

 村の人のほとんどは、そこで薬を作る薬師(くすりし)という仕事をして暮らしてました。昔から伝わる薬で、とてもよく効くと評判で、遠くの大きな町からも買い求めに来る人が沢山(たくさん)いました。

 その村には、リリとゴゴと言う9才になる姉と6才になったばかりの弟の2人の姉弟が住んでいました。姉のリリはおとなしく慎重(しんちょう)な性格でした。反対に弟のゴゴは活発(かっばつ)で、すばしっこい性格でした。

 二人の家は段々になった村の上から2段目の一番西側にありました。リリとゴゴの家でも薬師(くすりし)をやっていて、お父さんとお母さんは、忙しい時期になると、毎晩遅くまで工場で働いていました。

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【 2008/05/01 00:03 】

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リリの宝物
 リリは、月曜日から土曜日の間、3時頃まで学校に通っていました。学校といっても小さな村なので、一クラスしかなくて、7才から16才の子供20人が一緒に勉強していました。

 この村の子供たちは、大きくなると、そのほとんどが薬師になります。ですから授業の内容は、材料の植物のことや、どこで手に入るかや、どうやって混ぜて薬にするかなど薬に関することばかりで、実を言うと、リリは少しばかり飽き飽きしていました。『難しい植物の名前を次から次へと覚えることに何の意味があるのかなぁ〜。そんなの覚えなくても、教科書を見ればいつでもわかるのに。』といつも思っていました。

 そういう訳で、今日もリリは、授業に退屈してしまい、海が見える窓際の席で、物思いにふけっていました。そして、去年のバザーで、お父さんに買ってもらったキラキラ光る細かいつぶの入った丸い消しゴムを手のひらでコロコロさせて遊んでいました。その消しゴムは、最初は、四角くかったのですが、授業中に少しずつこっそり削って、まん丸にしたのです。どこもデコボコが無くて、手のひらで転がすと、太陽の光が色々な方向に反射して、キラキラ光ります。

 リリは、その消しゴムを「キラ消し」とよんで、一番の宝物にしていました。そして、リリは『去年のバザーは、楽しかったなぁ〜。早く今年も来ないかな。』と、そのキラ消しをころがしながら、思いました。

「ふぁ〜」

キラ消しを転がしているうちに、リリは、思わずあくびをしてしまい、慌てて口を押さえました。でも厳しいゼクセル先生は見逃しませんでした。

「リリさん!」

黒板の方を向いていたゼクセル先生が、急に振り向き、厳しい声で言いました。

「今、私が言った薬草の名前を言ってください!!」

リリは、顔を真っ赤にして、立ち上がりました。キラ消しを転がしながらも、なんとなく先生の話は聞いてましたので、本当は答えられそうです。隣の席から、友達のカミュランが、こっそり教科書のページを指して、「ココだよ。」って、小声で教えてくれてます。でもリリは、ちゃんと聞いてなかったバツの悪さと、急にクラスのみんなに注目されてしまった気恥ずかしさで、声が出ず、ますます顔が真っ赤になって黙ってしまいました。

「リリさん。全く集中していませんね。バツとして、明日までに薬草の名前を100書いてくるように!」

と、先生は厳しく言いました。

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【 2008/05/01 00:05 】

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ゴゴの一日
 毎朝、家族のみんなが仕事と学校に出ていってしまうと、ガランとした部屋にゴゴは一人残されます。

「今日は何して遊ぼうかなぁ〜」

と、ゴゴは一人言を言いました。しばらくは、一人で絵を描いたり、ビー玉で遊んでたりしてましたがお昼頃になるとすっかり飽きてしまいました。そして、お母さんの準備してくれたお弁当を食べながら、小さな声でつぶやきました。

「そうだ、おばあちゃんちに行こう。」

 村には、同じくらいの子供がいませんでしたので、ゴゴは、お昼の間、近所のおじいさんやおばあさんと遊ぶか、一人で遊ぶかどちらかしかありませんでした。それで最近では、もっぱら一つ上の階に住んでいるおばあちゃんちに行ってました。

「おっばあちゃ〜ん」

ゴゴは元気良くドアを開けておばあちゃんちに入りました。おばあちゃんちはいつも何かの食べ物の良いにおいがします。

「おぉ〜ゴゴちゃんか。今日は何をして遊ぼうか。それとも、おいしい物を作ったけど、食べるかい?」

おばあちゃんは、台所の方から、ゆっくり出てきて、ニコニコしながら、少ししわがれた声で答えました。

「食べる。食べる。」

ゴゴは、さっきお母さんのお弁当を食べたばかりなのに、おばあちゃんの作ってくれるおやつだと、いつだって、いくらでも食べられます。

「今日はな〜に?」

ゴゴが聞くと、おばあちゃんは

「今日は、おばあちゃんの特性シロップがかかったホットケーキだよ。さあ、お食べ。」

と、言って、大きなお皿にホクホクの三段重ねのホットケーキを持ってきてくれました。ホットケーキの上には、トロリととろけたバターが乗っています。さらにその上にお皿のふちからこぼれそうなくらいにたっぷりとシロップが、かかっていて、とっても良いにおいがします。

「わぁー、いっただきまーす。」

ゴゴは、思わず声を上げて、すぐに食べ始めました。

「そう言えば、リリちゃんは最近来ないね。前は良く来てたのにねー。どうしてるの?」

ホットケーキをパクついているゴゴをニコニコ見ながらおばあちゃんは、たずねました。

「学校だよ。宿題もあるから、来れないみたい。お勉強いそがしいみたい。」

ゴゴが答えると、

「そうかい。今度、遊びにきてねと、言っておいておくれ。それから、おやつをたっぷり用意しておくからって。」

と、おばあちゃんは言いました。ゴゴは口いっぱいに、ほおばっていたので、首をたてに振って返事をしました。

 ゴゴは食べ終わると、

「ごちそうさまー。」

と言って、ポケットからパチンコとビー玉を出して、おばあちゃんに聞きました。

「これやっていい?」

おばあちゃんは、

「あら、ビー玉でやるとそこら中のお皿や花瓶が割れでしまうねー。あぶないよ。かわりに紙を丸めてあげるから、それでやりなさいね。それから、それは絶対、人に向けたりしないって、やくそくできるかな?」

と答えました。

ゴゴは、

「やくそくするー。」

と、言ってさっそく遊び始めました。おばあちゃんの作ってくれた丸いまとに向かって、ぎゅっとパチンコのゴムをひっばります。そして、よーく狙いをつけて、ばっと離しました。すると、紙の玉は、まとに飛んでいきます。でも、いつも少し違うところにいってしまいます。おばあちゃんは、

「手をまっすぐ伸ばしてー。それとすこーしだけ、下を狙うといいよ。」

と言いました。そのとおりに何度となく、やっているうち、ゴゴは、すっかりまとに当たるようになりました。

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【 2008/05/01 00:11 】

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3時になったら
 おばあちゃんちにはボンボン時計がありました。ちょうどの時間になると、その時間の数だけ「ボーン」と、鳴ります。 ゴゴが、夢中になってパチンコをしていると、

「ボーン、ボーン、ボーン」

と、時計が3回鳴りました。すると、ゴゴは急にソワソワし始めました。そして

「おばあちゃん、僕そろそろ帰るから。」

と、言いました。おばあちゃんは

「おっ、もうこんな時間かい。お姉ちゃんを迎えに行っておいで。」

と、言いました。ゴゴはその言葉を聞くと挨拶もそこそこにドアを開けて、ダッーと駆け出しました。 ゴゴは、3時頃、姉のリリが学校から帰って来るのを毎日とても楽しみにしていますた。今日も家の隣にある坂まで駆け足で来ると、リリの姿が坂の下の方に見えるのを、今か今かと待ちわびていました。

「お姉ちゃんだっ!おーい!おーい!」

ゴゴは、西側の坂を登って来るリリを見つけて、小さくぴょこ−んぴょこんとジャンプしながら声をあげました。でもリリは、本でも読んでいるのでしょうか、全然気付かないようすで、下を向いたまま、ゆっくりゆっくり登って来ます。
 ゴゴは何度呼んでもリリが気付かないので、とうとう坂を駆け下り始めました。

 リリは今日、学校であったことを思い出しながら歩いていました。『あ〜あ、今日は最悪だったなぁ。先生にしかられて、宿題たくさんでちゃったし・・・』リリは、宝物のキラ消しをまた、手のひらでコロコロさせながら、思いました。

「おっねーちゃーん!」

ゴゴが、走りながら大声で、近づいて来ました。でも、リリは気づきません。ゴゴは、あと、5歩くらいの所でつまづいてしまい声をあげました。

「わーー!!」

リリは、その声にやっと気がついて、ふと顔をあげるとゴゴは目の前にせまっていました。

ドシーーン!!

とうとう、リリとゴゴはぶつかってしまいました。その時です。コロコロコロッと、リリの手からキラ消しが落ちてしまいました。そして、坂のはしにある溝に向かって転がり始めました。リリは

「あっあっ」

と、言いながらキラ消しを追いかけましたが、あと少しのところで、溝に落ちてしまいました。

 ゴゴは「ああ、痛かった。」と、言いながら溝をのぞき込んでいるリリに近づいて来ました。

「どうしたの?お姉ちゃん。」

と、聞くと、リリは「溝の穴からキラ消しが落っこちちゃったみたいなの。」と、答えました。溝は、30センチづつのふたがされていて、その境目(さかいめ)の所に穴が開いています。どうやら、その穴にキラ消しは落ちてしまったようです。

 二人で頭を突き合わせて、穴をのぞき込みましたが、意外と穴は深いようで真っ暗で何も見えません。「あ〜あ」リリはがっかりして、思わず声をあげました。その時です。ゴゴが

「お姉ちゃん!なんか赤い光が見えるよ!」

と、言いました。リリも、急いで、のぞき込みました。確かに赤い光が見えます。しかも、ゴトゴトとなにかが動いているような音がします。でもしばらくすると、赤い光も音もしなくなりました。

「今の何だったのかなぁ」
ゴゴが言いました。リリは

「そんなことより、キラ消しが、なくなっちゃったじゃない。」

と、少し涙声(なみだごえ)で言いました。

「ごめんなさ〜い」

と、ゴゴは、しょんぼりして言いいました。

 それから、二人は手をつないで家に帰りました。

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【 2008/05/01 00:49 】

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家の守り神
「ただいま〜」

誰もいない家に二人は帰って来ました。

 家には、玄関を入ってすぐ左側に大きな丸い石が置いてある「よりどころ」と呼ばれる場所がありました。

 リリやゴゴの部屋より広くて、たてが5メートル、よこが3メートルほどもありました。実は、リリたちの村ではどの家もほぼ同じ間取りで、玄関の左側か右側に、同じような場所があり、同じように大きな丸い石を置いていました。その石のまわりには、お花や供え物が置いてあって、丸い石は家の守り神だと、リリたちは教えられていました。

 リリがまだ学校に行く前の小さかったころ、お隣には、変わったおじいさんが住んでました。そのおじいさんが生きている頃、おじいさんのお家の「よりどころ」て遊んでいて、守り神の石の真横にあった穴に落ちてしまい、大変しかられた覚えがあります。それからは、なんだか少しこわい感じがして、あまりそっちの方は見ないようにしていました。

 でもゴゴは、違いました。家に帰ってきた時、必ず1回はその場所に行って石より高く飛べるか試してみます。今日もゴゴは、「よりどころ」に行きましたが、リリはサッサと部屋に入って行きました。

 リリは、カバンを台所のテーブルに置くと、イスに腰かけて、フーッとため息をつきました。そして、

「あーあ、今日はついてなかったなぁ〜。先生には怒られたし、キラ消しは、なくしてしまうし・・・」

と、ひとりごとをつぶやきました。

その時、

「おねーちゃーん。おねーちゃーん」

ゴゴが呼ぶ声が聞こえました。

「たいへんだよー。」

リリは急いでゴゴのいる「よりどころ」のほうへ行きました。

「どう、したの?」

リリが、聞きました。

「キラ消しが、あったよ。」

ゴゴが指差して言いました。

「エッ、エッー!!」

リリは、びっくりして思わず声を上げました。キラ消しは、リリが作ったものなので、この世の中に一つしか無いはずです。しかも、先ほど坂の途中で、溝の中に落としてしまったので、こんな所にあるはずがありません。

 でも、キラ消しは、確かに丸い大きな石の横にちょこんと、ありました。

 実はその時、少し変わったことが、起こっていました。丸い大きな石のわきにある小さな穴のところで、かすかにゴトゴトという音がして、赤い小さな2つの明かりが光っていたのです。でも、リリもゴゴも、そのことに気づきませんでした。 ただ、リリは、きっと家の守り神さまが、かわいそうに思って、取ってきてくれたんだと思ってうれしくなりました。そして、ゴゴといっしょに

「ありがとうございます。」

と、丸い石に向かって、ペコリとあたまをさげました。

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【 2008/05/01 00:52 】

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